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ムカデ(百足)レース

著者 松島永子(筆名)

2001年2月7日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

ムカデ(百足)レース

 二人三脚のように二人組みで足首を縛る。さらに、前後の二人組とも外側の足同士、内側の足同士を縛る。クラス全員の足を結んだ巨大な「ムカデ」ができる。

 卒業式を間近に控えた二月。六年生が九月から実施してきた「卒業記念学年行事」の最後の種目は「ムカデレース」だった。
 腕相撲、ミニバスケット、長縄、百人一首、将棋、クイズ大会…様々な種目を学級対抗で実施してきた。昼休みを使ったこの行事は、毎回とても盛り上がった。
 今回はその最後を飾るムカデレースである。どのクラスも練習に一段と気合いが入っていた。
 
「他のクラスに勝つ、ということを目的にはしない。もう卒業していくのだから、自分たちで歩いていくぞ、という気持ちを込めて、各クラス順番に運動場を二周する。そのタイムを計って競う。」というのが今回のルールだ。実行委員の子供たちが決めたこのルールに、五人の担任も大賛成だった。

 クラス全員三十数名の息が合わなければ、このムカデは前にも後ろにも進めない。練習を開始した二月始めは、どのクラスも惨憺たる状況だった。
 私のクラスの一番最初のタイムは、なんと運動場一周が二十二分。歩いている時間よりも、「きゃあー」
「ちょっと待ってよ。」
「イテテ。まだ動くなー。」
と叫んでは転んでいる時間のほうが長いのだ。ストップウォッチ片手に、私は転んだ子を引き起こして回っていた。

 並び方、掛け声、いろいろと作戦を練り、毎日毎日練習は続いた。保健室は擦り傷だらけの六年生であふれかえった。でも、だれ一人として、「もうやめよう」とは言わなかった。
 そして二月中旬。なんとか転ばずに運動場一周歩けるようになっていた。

 いよいよ本番三日前。大きな問題にぶつかった。地道に歩くのか、最高記録更新をねらって走ってみるのか、ということだ。
 今回はタイムレースである。他のクラスに勝つことは二の次だ。自分たちが練習してきた記録をどこまで縮められるか、ということに子供たちはこだわっていた。
 練習ではほんの二十メートルくらい走ることができるようになったばかりである。クラスの意見は二つに分かれた。
「転んだら、立てなおすのに時間がかかって、結局歩くより遅くなるよ。」
「1歩1歩しっかり歩けばいいと思う。」
「今まで転ばずに最後まで走れたことなんて一回もないじゃん。
 安全策を主張している子はなぜか男子に多かった。
「でもさあ!」
 突然大きな声を出したのは小児マヒの後遺症があって歩くときにやや足を引きづりがちな陽子だった。
「せっかく今まで練習したじゃん。転んで痛かったけど、みんながんばったし。まだあと三日あるよ。走り続けられるように練習してみればいいじゃん。」
「そうだよ。やってみなきゃ、走れるかわからんよ。」
「陽子が言ってんだから、やるしかないって。」
 口々に走ることを主張するのは女子だった。
 一瞬の沈黙のあと、「いっちょ、走って勝負してみるかあ!」学級委員の英樹の一言に全員が「よっしゃあ!」とこたえた。

 そして当日。彼らは運動場二周を、一度も転ぶことなく走り終えた。タイムは三分五十秒。息を弾ませて「やった!最高記録」と肩をたたきあっている。
「自分たちの力で歩いていける」成長ぶりを目の当たりにして、もうすぐ巣立っていく子供たちをまぶしく感じた朝だった。

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